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識字率向上月間について
 
パストガバナー 重田 政信
 
途上国の非識字者の実態
 

 7月は識字率向上月間です。この特別月間はロータリー年度始めの7月に始まるので、各クラブがこの月間にふさわしいプログラムを用意するためには、年度の始まる前からこの月間の趣旨を理解しておく必要があります。
 RIは識字問題を最重要プログラムの一つとして取り上げ、識字能力向上は2005年までのRI強調事項に指定されていますが、現在、世界には約10億人の非識字者(従来の文盲)がいて、世界の大人の4人に一人は非識字者です。非識字者の98%は途上国の人たちですが、その2/3は女性であります。また、全非識字者の3/4はアジアに住んでいます。
 一方、途上国には学校に行けない1億3千万人の就学年齢児がいますが、折角入学した子供もその1/3は小学校を卒業していません。現在生まれてくる子供の99%は途上国の子供であり、教育の機会の乏しい途上国の子供が増え続けるので、学校に行けない子供の数は、むしろ増加の傾向にあります。このままでは貧富の差は益々広がり、地球規模の社会不安は一層増大するでしょう。これは大きな危機感として我々の心を捉えます。

 
先進国の非識字問題
 
 一方、先進国も問題を抱えている国が多く、途上国からの移民の多いアメリカでは、英語に対する識字率は決して高くありません。4千万人の成人が非識字者です。これは総人口の15%に当たります。3千万人の労働者が仕事の上で文字を使うことが出来ず、いわゆる機能的非識字者の状態です。こうした状況は、日本人のように、大部分が日本語を母国語とし、教育制度が整備された国では想像も出来ませんが、これは移民を多く抱える先進諸国の共通した悩みであり、近い将来に日本もこの問題を避けて通ることは出来ないでしょう。
 
非識字は諸悪の根元
 

 情報手段の進歩によって、今やインターネットを始めとする情報技術に遅れをとると、あたかも従来の文盲と同様に、メディアを使いこなす人に差を付けられ、世の進歩から取り残されることを覚悟しなければならない世の中になりました。
 そうした世の中で、文字さえ読めないということは、完全に世の中から取り残され、職も得られず、そのため貧困をもたらし、また貧困は子供の就学の機会を奪い、そのため更に非識字を生むという悪循環が、多くの途上国で繰り返されています。このままでは世界人口の1/5に過ぎない先進国の情報文化が益々進歩し、国家間の文明格差を増すばかりであり、世界の貧富の差は益々広がって、地球規模の社会不安は一層拡大されることでしょう。
 RIの「識字向上グループ」のリーダーであるR・ウオーカー博士は、RIの識字率向上運動こそポリオ・プラスの後を継ぐRIの重要なプログラムであるとして、今後ポリオ・プラスと肩を並べる広範な活動が展開されるべきであると説いていますが、そのポリオ・プラス計画を推進する上でも、最も大きな障害の一つに、非識字による現地民の理解不足が挙げられます。正に、非識字こそ諸悪の根源と言えましょう。

 
識字率向上こそ最も有効な人口対策
 

 現在の世界を脅かす途上国の人口爆発問題も、最も効果的な対策は識字問題であると言われます。地球上の人口は遂に60億を越えましたが、現在も毎年約1億人、即ちメキシコの人口に匹敵する人口増加を続けています。このまま人口が増え続ければ、我々地球上の人類は生き延びられません。この危機感が21世紀に於ける総ての奉仕活動の原点となるでしょう。しかも人口増加の99%は途上国の人口であります。我々は予防接種で救った子どもたちを飢え死にさせてはなりません。また彼らに生き甲斐を持たせる教育と職業を与えなければなりません。
 一方、途上国の少女が、中等教育を受けるだけで、出産率が先進国並に低下することが知られています。即ち全く中等教育を受けないと子供を7人の子供を産みますが、中等教育が95%を越えると、その地域は先進国並の出産数に落ち着くことが知られています。即ち最も有効な人口対策は途上国の女子の教育であると言われます。

 
識字プログラムの今日的意義
 

 日本はかってない程長い不況に見舞われています。その日本が何故、ロータリーの世界では常に援助する側に回って、途上国に対する識字プログラムのような奉仕活動を継続するのでしょうか?
 もし、現在の先進国と極貧途上国との間にみられるような、経済的・文化的な格差が、ある一つの国の中に存在したとすれば、その国ではいつ革命騒ぎが起きても不思議はありません。今や地球は益々小さくなりまし。このような格差が地球上に継続し、それが増大する限り、我々は到底平穏な未来を次代に残すことは出来ないでありましょう。その不穏な趨勢はジェノバ・サミットで見られた途上国サイドの流血デモ騒ぎに象徴されています。我々は世界平和の見地からも識字プログラムの重要性を再認識する必要があります。これは先進国にとっても人ごとではありません。正に「情けは他人のためならず」であります。またこれは「最もよく奉仕するもの、最も多く報いられる」というロータリーの実践哲学を最もよく具現する、象徴的なプログラムといえましょう。
 現在、日本は困難な経済状況下にありますが、非識字者が世界で最も多い東南アジアの国々の経済状態は常在的に困難な状況にあり、アジアの一員として日本に対する期待は益々高まっています。
 RIは未だしばらくポリオ・プラスに重点を置くと思われますが、非識字の多いタイ出身のビチャイ・ラタクル・次期RI会長年度には識字問題に相当重要性を与えられると思われます。我々は識字率向上月間の意義をよく理解し、非識字のために苦しむ人たちを救済する努力を続けてゆく必要があります。(前橋西RCでの卓話から抜粋)